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神戸地方裁判所 昭和55年(ワ)1137号 判決 1983年2月28日

原告

国東光治

ほか一名

被告

新日本工業株式会社

ほか一名

主文

1  被告らは各自原告国東光治に対し、金二〇〇万七、六四五円およびうち金一八二万七、六四五円に対する昭和五四年六月二三日から、原告国東久美子に対し、金一五〇万七、六四五円およびうち金一三七万七、六四五円に対する前同日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

4  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは各自

(1) 原告国東光治に対し、金二九三万二、八〇九円およびうち金二七三万二、八〇九円に対する昭和五四年六月二三日から

(2) 原告国東久美子に対し、金二四三万二、八〇九円およびうち金二二三万二、八〇九円に対する前同日から

各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告らの長男国東伸治(当時一歳九月、以下、亡伸治という。)は、左記交通事故により、即日、神戸赤十字病院に入院したが、昭和五四年六月二三日午後二時一一分胸部圧迫による遷延性心臓破裂により死亡した。

(1) 日時 昭和五四年六月二一日午後二時五分ころ

(2) 場所 神戸市中央区花隈町一二番地の一花隈ダイヤハイツ一階駐車場

(3) 加害車両 普通貨物自動車(神戸四四ゆ三七一八号)

保有者 被告新日本工業株式会社(以下、被告会社という。)

運転者 被告山口茂(以下、被告山口という。)

(4) 事故の態様 被告山口は、加害車両を運転して、本件事故現場である駐車場に自車を駐車させるため、同駐車場に進入し、左折しようとした際、左前方あたりに子供らが遊んでいたのであるから、左前方の安全を確認すべき注意義務があり、これが安全確認をしさえすれば、亡伸治を左方に容易に発見し得たのにかかわらず、これを怠り、同人が自車前輪付近に近づいているのを全く気づかないまま進行した過失により、同人を自車左前輪付近に接触転倒させたうえ、同人を自車左前輪で轢過して停止したのであるが、周囲の大人たちが大声をあげ、自車の窓をたたくなどして事故の発生を知らせているのにかかわらず、あわてて後進したため、同人を自車左前輪で再度轢過したものである。

2  責任原因

(1) 被告山口は、前記事故態様によれば、本件事故は同被告の過失に起因するから、民法七〇九条所定の責任がある。

(2) 被告会社は、加害車両を保有し、当時、自己のため運行の用に供していたのであるから、自賠法三条所定の責任がある。

3  損害

(1) 亡伸治の治療関係費 金三八万五、七八〇円

(2) 亡伸治の逸失利益 金一、二八八万五、六一八円

亡伸治は、当時、一歳九月であるから、満一八歳から満六七歳まで四九年間就労可能として、昭和五三年度賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男子労働者「一八~一九歳」の年間収入金額に一一パーセント加算した金一五一万三、八一八円を基礎とし、生活費控除を五〇パーセントとして、亡伸治の逸失利益を算定すると金一、二八八万五、六一八円〔1,513,818円×(1-0.5)×17.024(ホフマン係数)=12,885,618円〕となる。

(3) 亡伸治の慰藉料 金四〇〇万円

(4) 相続 各金八六三万五、六九九円

(1)(2)(3)の合計金一、七二七万一、三九八円について、原告らは亡伸治の父母として、二分の一宛各金八六三万五、六九九円を相続した。

(5) 原告ら固有の慰藉料 各金三〇〇万円

(6) 葬儀費(原告光治) 金五〇万円

(7) 弁護士費用 各金二〇万円

(8) 損益相殺 各金八六五万二、八九〇円

原告らは、自賠責保険金一、七三〇万五、七八〇円および被告らから金五〇万円合計金一、七八〇万五、七八〇円の支払を受けたから、二分の一宛(金八六五万二、八九〇円)を原告らにそれぞれ損益相殺する。

4  結論

原告光治の請求し得る損害額は、前記(4)(5)(6)(7)の合計から(8)を控除した金三六八万二、八〇九円であり、原告久美子のそれは、前記(4)(5)(6)の合計から(8)を控除した金三一八万二、八〇九円であるから、各自被告らに対し、原告光治は右金三六八万二、八〇九円のうち金二九三万二、八〇九円とうち金二七三万二、八〇九円に対する昭和五四年六月二三日から、原告久美子は右金三一八万二、八〇九円のうち金二四三万二、八〇九円とうち金二二三万二、八〇九円に対する前同日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  被告会社

1 請求原因1(1)、(2)(3)は認め、(4)は争う。

2 同2(1)は否認し、(2)は認める。

3 同3(1)は認め、(2)(3)(5)(6)(7)は争う。(4)の相続関係は認め、他は争う。(8)は認める。

(二)  被告山口

1 請求原因1(1)、(2)(3)は認め、(4)は否認する。

2 同2(1)は否認する。

3 同3(1)、(4)の相続関係、(8)は認め、その余は争う。

三  被告らの主張

1  亡伸治の死と本件事故との因果関係の不存在

本件事故は、加害車両が亡伸治の胸部を轢過したものである以上、心臓の損傷に対処すべき治療体制をとり、心臓外科医によつて、経時的に心電図検査を行うなどして十分な監視をし、かつ、迅速な外科的手術をなすべきであり、かかる措置をとりさえすれば、亡伸治の生命は失われることがなかつたのにかかわらず、小児科医が主治医となつて、かかる措置を講じなかつたため、亡伸治が死亡したものであるから、本件事故と亡伸治の死亡との間には因果関係はない。

2  過失相殺

仮に被告山口に過失が認められるとしても、当時、亡伸治は満一歳九月であつたのであるから、母親である原告久美子としては、亡伸治の手をつなぐなどして、十分な監視をしておくべきであつたのにかかわらず、かかる監視を怠つたため、本件事故を発生せしめたものである以上、監督者である原告久美子に過失があるものとして、相応の過失相殺をすべきである。

四  被告らの主張12に対する認否

争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件交通事故の発生について

請求原因1(1)、(2)(3)は当事者間に争いがない。そして、争いのない右事実に成立に争いのない甲第一号証ないし第六号証、第八号証、乙第一号証、丙第一号証ないし第八号証、原告国東久美子、被告山口茂各本人尋問の結果によれば次の事実を認めることができる。すなわち、本件事故現場は、花隈ダイヤハイツと称する地上一一階、地下二階の共同住宅(マンシヨン)の一階駐車場であるが、同駐車場は、北側入口付近から幅員三・一八メートルの通路で北方に二〇・八メートルのところを東西に通ずる道路に通じており、また、その南側は幅員三・五五メートルの出入口で裏庭(屋外駐車場)と通じている。被告山口は、加害車両を運転して、右マンシヨンに商用で赴くため、本件駐車場の北側の東西に通ずる道路から右通路を経て本件駐車場の北側入口にさしかかつたが、入口左側の本件駐車場の北東隅に八百屋がトラツクを駐車して出店を開いており、その周辺に買物客の主婦たちが集まり、子供たちが遊んでいるのを認めたうえ、一たん停止した。被告山口は、自車の駐車位置を探して左折を開始したところ、四、五歳位の男子の子供が自車直前を右から左に走つて行くのを認めたので停止し、ふたたび同児が左から右に走り去つたのを認めて発進して、さらに左折を開始した際、左前方の安全の確認を怠つたため、亡伸治が自車左前輪付近に近づいてきたのに気づかず、そのまま左折通行し、同人を自車左前輪付近に接触、転倒させて、同人を自車左前輪で轢過して停止した。その際、周辺の大人たちが、これを目撃して、大声をあげ、自車の窓をたたくなどして事故の発生を知らせたのにかかわらず、被告山口は、あわてて後進し、ふたたび同人を自車左前輪で轢過し、自車後部をコンクリート支柱に衝突させて停止した。亡伸治の母である原告久美子は、亡伸治をつれて本件駐車場北東隅の八百屋の出店に赴き「しそ」の葉を買い、使用方法の説明を受けている際、亡伸治の手をつなぐなどして同児の監視をしないでいるうち、亡伸治が自己の傍をはなれて駐車場内に歩き出て、加害車両に近づくのを全く気づかなかつたため、同児が加害車両の左前輪付近に近づき、それに接触転倒し、前記のように二度にわたり轢過された。そのため、亡伸治は、胸部圧迫症、左第五肋骨骨折などの傷害を受けて、即日、神戸赤十字病院に入院したが、同月二三日午後二時一一分遷延性心臓破裂により死亡した。以上のとおり認めることができる。そして、鑑定人龍野嘉紹の鑑定の結果によれば、本件事故と亡伸治の遷延性心臓破裂による死亡との間には相当因果関係の存在を是認し得る。

二  責任原因について

(1)  前記認定事実によれば、被告山口が民法七〇九条所定の責任を負うべきことは明らかである。

(2)  被告会社が加害車両を保有し、当時、自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないから、被告会社は自賠法三条所定の責任がある。

三  損害について

(1)  亡伸治の治療関係費 金三八万五、七八〇円

当事者間に争いがない。

(2)  亡伸治の逸失利益 金一、一九〇万四、二九九円

亡伸治は、昭和五二年九月一六日生れで、満一歳九月であるから、満一八歳から満六七歳まで就労可能として、昭和五四年度賃金センサス第一巻第一表の企業規模計、産業計、男子労働者学歴計の「一八歳~一九歳」の年間平均賃金一四二万四、三〇〇円を基礎とし、生活費控除を五〇パーセントとして亡伸治の逸失利益を算定すると金一、一九〇万四、二九九円〔1,424,300円×(1-0.5)×16.716(ホフマン係数)=1,1904,299円〕となる。

(3)  亡伸治の慰藉料 金四〇〇円

亡伸治の年齢、家族関係、その他諸般の事情に照らして金四〇〇万円をもつて相当と認める。

(4)  相続 各金八一四万五、〇三九円

(1)(2)(3)の合計金一、六二九万〇、〇七九円について、原告らは亡伸治の父母として二分の一宛相続したことは当事者間に争いがないから、原告らの相続分は各金八一四万五、〇三九円である。

(5)  原告ら固有の慰藉料 各金三〇〇万円

原告らと亡伸治との身分関係、年齢、その他諸般の事情に照らして各金三〇〇万円をもつて相当と認める。

(6)  葬儀費(原告光治) 金五〇万円

原告光治の負担した葬儀費は、金五〇万円をもつて相当因果関係のある損害と認める。

(7)  過失相殺

原告光治の損害額は、(4)(5)(6)の合計金一、一六四万五、〇三九円であり、原告久美子のそれは(4)(5)の合計金一、一一四万五、〇三九円であるところ、前記一の本件事故の態様に照らせば、亡伸治の母である原告久美子の過失も認められるから、過失相殺の法理により、原告らの右各損害額の一〇パーセントを減殺するのが相当である。したがつて、原告光治の損害額は、金一、〇四八万〇、五三五円となり、原告久美子のそれは金一、〇〇三万〇、五三五円となる。

(8)  損益相殺 各金八六五万二、八九〇円

当事者間に争いがない。

(9)  弁護士費用

そうすると、原告光治の請求し得る損害額は金一八二万七、六四五円となり、原告久美子のそれは金一三七万七、六四五円となるところ、本件訴訟の審理の経過、事案の難易度、認容額、その他諸般の事情に照らし、原告光治の弁護士費用は金一八万円、原告久美子のそれは金一三万円をもつて相当と認める。

四  むすび

よつて、原告らの本訴各請求は、各自被告らに対し、原告光治が金二〇〇万七、六四五円およびうち金一八二万七、六四五円に対する昭和五四年六月二三日から、原告久美子が金一五〇万七、六四五円およびうち金一三七万七、六四五円に対する前同日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるから認容するが、その余は失当として棄却することとし、民訴法八九条、九二条、九三条、同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

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